
今年のお盆休みは、心身ともにどっと疲れる出来事があった。義実家は私たち夫婦の住む市内にあり、義姉夫婦もそこまで遠くない場所に住んでいる。一方、義兄夫婦だけは飛行機で帰省する距離。毎年お盆には全員が顔を揃えるのだが、その日の夕食後、まさかあんな重い空気になるとは思わなかった。
食後にお茶を飲みながらテレビを見てくつろいでいたとき、義兄夫婦が突然テレビを消し、「大事な話がしたいんだけど」と改まった口調で切り出してきた。場の空気が一気に緊張し、思わず全員正座。「なんだなんだ!?」とざわつく中、私はその場を外したほうがいい気がして子どもを連れて席を立とうとした。だが義兄嫁に「私ちゃんもいて!全員で話したいから!」と強い口調で止められ、背筋がスッと冷えた。
本題は──
「公正証書遺言を作ってほしい」
という、義父母への遺産に関する要求だった。
義父は静かに「そういう話は今じゃなくてもいいだろう」と制したが、義兄は譲らず「今だからこそ、全員の前で話し合うべきだ」と食い下がる。すると義父が義母と目を合わせ、ため息まじりに口を開いた。
「もう作ってある。だからこの話は終わりだ。」
普通ならそれで収まるはずだった。だが義兄は余計な一言を言ってしまう。
「ちゃんと平等になってるんだろうな? だって普段から<旦那>と<義姉>の子どもに色々買ってやってるみたいだし。うちは子どもがいないんだぞ?」
その瞬間、義母の表情が変わった。
涙をこらえながら声を震わせて言った。
「孫に何かしてあげたいと思うのは、あなたには関係ないでしょ。
あんたたちには飛行機代を出してあげてるんだから、それで同じじゃない。」
しかし義兄は逆上し、「それはそれだろ!」と言い返す。
空気が凍りつく中、義父が低い声で、しかし決定的な一言を放った。
「誰に何を遺すかは俺が決める。今後、この話に二度と口を出すな。
」
静けさの中に、ものすごい迫力があった。
義兄夫婦は強引に“損している”と思い込んでいたのだろう。だが交通費を親に出してもらっている以上、むしろ恩恵を受けているのは義兄側だ。義実家は資産家ではなく、義父も普通の会社員として勤め上げただけ。孫に多少の贈り物をすることより、彼らの帰省費のほうがよほど高額だ。
義母は、息子から“遺産を平等にしろ”と責められたことが何より悲しかったのだろう。
泣いて肩を震わせる姿が、胸に刺さった。
家族とはいえ、遺産の話は本当にデリケートだ。
お盆の団欒が、一言ですべて壊れてしまった──そんな苦い出来事だった。

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