
金曜の夜、会社の飲み会帰り。まだ22時前で、街はそこそこ人もいる時間帯だった。そんな中、ほろ酔いどころか完全に出来上がった課長が「送って行ってあげよう」と言いながら、やたら距離を詰めてきた。私はアラサー独身、課長は既婚で子どもあり。どう考えても送られる必要などないし、面倒な展開しか想像できない。
何度も「大丈夫です」「1人で帰れます」と言っても、課長は酔いの勢いで「いやいや危ないから」と私の後をついてくる。タクシーに乗るでもなく、ただついてくるあたり、もう酒臭さとしつこさで限界だった。本音を言えば、課長じゃなかったら警察か駅員に突き出していた。
結局、一緒に電車に乗る羽目に。すると課長は私の隣にべったり密着して座り、唐突に「君を、どう扱ったらいいんだろう……」と呟いてきた。
意味深すぎて、正直背筋が寒くなる。
「は?何か私、失敗しました?」
そう返すと、課長はさらに「妹として扱ったらいいのかな、それとも……」と、よく分からない方向へ話を進めてくる。もちろん私は課長の妹ではないし、そんな扱いも断固お断りだ。
しかし、その“……(余韻)”の正体は、酔いすぎて意識が半分飛んでいるだけだった。次の瞬間には「これからは、君を妹としてじゃなく……」と言い残し、口を開けて爆睡。足を広げて完全に無防備な姿で寝てしまった。
「この隙に逃げるしかない」と立ち上がった瞬間、ちょうど駅に停車。私はとっさに「課長!着きましたよ!降りてください!」と強めの声で言い放つ。課長は「ああ……」とだけ言って、ふらふらと1人で降りていった。そのまま駅のベンチにへたり込み、ドアが閉まると同時に私は無事に離脱成功。
翌週月曜、出社すると課長は妙にしょんぼりしていた。
仲の良い社員に聞いたところ、課長は完全に別路線の電車に乗ってしまい、見知らぬ駅で寝込み、終電を逃し、ネットカフェもない住宅街で駅員に追い出され、深夜タクシーを呼ぶ羽目になり、帰宅後は奥さんに激怒されて小遣い没収。
どうやら私につきまとった記憶も無いらしい。それ以来、課長はやけに大人しくなった。
――不倫願望があるなら、まず酒の量を考えた方がいい。
そんな皮肉めいたオチで終わった金曜の出来事だった。

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