数年前の夏。
会社中がざわついた“前代未聞のゼロ査定”事件を思い出す。
うちの会社はボーナスが段階制で、どれだけ評価が低くてもゼロになるなんてまずない。
勤続20年の上司ですら「ゼロなんて見たことない」と言うレベル。
なのに、その“ゼロ”を叩き出した男がいた。
当然、本人は納得できるはずもなく、労組に駆け込んで
「不当だ! 訴えてやる!」
と大暴れ。
そのせいで社内に噂が一気に広まった。
ところが──
ゼロ査定の理由は、誰もが知っていた“アレ”だった。
彼は直前に、数百万円もする超高価な薬品を、厳しいチェック体制を犯罪行為でかいくぐり“勝手に使用”。
結果、薬品は全てパァ。
人的被害がなかったのが奇跡と言われるほどの危険行為だった。
当然、会社としては出るところに出れば完全アウト。
自主退職で穏便に終わらせる方向だった。
しかも、この男の父親は社内でも功労者として名の知れた人物。
父親は「懲戒解雇にしてくれ」と息子の不祥事に頭を下げていた。
それでも社長は恩義から
「経歴だけは汚すな。退職金も出す。やり直させてやろう」
と温情を見せたという。
……だが、肝心の本人は理解ゼロ。
辞めたくないと駄々をこね、さらに「ボーナスが出ない!」と騒ぎ、全社員の愛想が尽きた。
結局、会社は温情を取り下げ、懲戒解雇。
さらに被害届を出し、彼はあっさり逮捕。
そして数年後。
“シャバに出た”彼が、旧本社にやってきたらしい。
私はたまたま近くの定食屋に寄った帰り、彼と遭遇した。
ギーギーと意味不明に絡まれたので、即・警察を呼んだ。
研究所はセキュリティが厳しいし、今の本社はすでに移転済み。
彼に来る場所はもう存在しない。
父親は人望のある人物だっただけに、息子の転落ぶりは本当に衝撃だった。
「反省して出直してこい」
そう言いたいところだが、再び警察に連れていかれていく姿を見ると、ため息しか出なかった。
あなたの周りにも、
“自分で火をつけておいて被害者ぶる人”
いなかった?
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