私の誕生日。彼氏が「雰囲気の良いレストラン予約したよ」と嬉しそうに言うので、少しだけ期待しながら向かった。店内は薄暗く、JAZZが流れる大人っぽい空間——のはずだった。
しかし、席に案内された瞬間から嫌な予感しかしなかった。
私たちは一番奥の、まるで“死角”のような場所に通された。
メニューが決まっても、スタッフはこちらを一切見ない。10分待っても誰も来ない。仕方なく席を立ってスタッフを呼びに行けば、ついてきたスタッフは私たちではなく、後から来た親子連れの接客を始めた。
「ちょっと…?」と声をかけても「少々お待ちください」だけ。
そのままさらに5分放置。
彼氏を見ると、スマホをポチポチしながら
「短気起こすなよ。せっかく予約したのに」
と、まるで私が悪いかのような言い方。
ようやく注文が終わった頃にJAZZの生演奏がスタート——したが、隣の子供が音に驚き大泣き。
離乳食の器をガンガン叩き、よちよち歩きで店内を徘徊。ついには私たちのテーブル下に潜り込み、私の足をベタベタ触ってきた。
母親は喋りに夢中、スタッフは完全スルー。
彼氏はスマホに夢中で状況にすら気づかない。
その瞬間、世界がぐにゃりと歪んだような感覚になった。
ヨダレで湿った小さな手の感触が気持ち悪くて、全身がゾワッとした。
せっかくのJAZZは雑音。気遣いゼロの彼氏の横顔は、無表情のマネキンのように見えた。
「もう無理。食事どころじゃない」
店を出たあと、彼氏にお金を握らせて別れを告げた。
彼氏は「意味わからん」「短気すぎ」と連呼。
周囲も「子供くらい我慢しなよ」と私を責める声さえあった。
だけど違う。
問題は“子供”でも“店の質”でもない。
私の異変に気づかず、寄り添いもせず、全部『短気』で片付けた彼氏の姿勢だ。
その後、元彼はロミオ化して
「また付き合ってやってもいい」
「お前のような女は俺しか貰い手いない」
と支離滅裂なメッセージを大量送信。
周囲にもバレて、ただの痛い男として評価は大暴落したらしい。
誕生日は最悪だったけれど、
“本性を見抜けた記念日”だったのかもしれない。
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