去年のバレンタイン、いまだに胸がざわつく。
毎年、自分へのご褒美に買う“あの高級チョコ”。
限定パッケージまで含めてずっと集めてきた。
寒空の下に並んで、やっと手に入れた年だったのに——帰宅したら、冷蔵庫からまるごと消えてた。
チョコだけじゃない。
上司にもらった高級肉も、非常用の現金も、アクセサリーも。
全部、痕跡ごと消えていた。
混乱したまま母に電話すると、
「今日ね、兄嫁ちゃんが高そうなお肉買ってきたの…」
その一言で、背中を冷たいものが走った。
包みの特徴を伝えると、全部一致。
警察が指紋を取ったら、私と母以外の指紋がべったり。
実家に乗り込み兄嫁を問い詰めても、黙ったまま。
兄は「俺、そんなチョコもらってないよ」の一点張りでかばう始末。
腹が立ってつい言った。
「じゃあ、本命が別にいて渡したんじゃない?」
——そしたら本当にそうだった。
そこから8時間。
兄嫁は勝手に崩れ、全部白状した。
不倫相手に貢ぐために金が足りなくなって、
母から預かっていた合鍵を使って、
“独り暮らしで金回りのいい義妹(=私)から拝借すればいいや”と軽く考えたらしい。
一度だけ?
そんな言葉、信じられるはずもない。
貴金属はオークションで二束三文、
限定パッケージのチョコは不倫相手へ。
兄夫婦は離婚。
兄嫁には前科がつき、弁償もさせた。
でも、あの年のパッケージだけ、コレクションには永遠に空白が残る。
棚に並んだ箱を見ると、どうしてもあの嫌な感覚がよみがえる。
——家族って、信用しすぎたら壊れるの?
どこまで信じて、どこで線を引けばよかったんだろう。
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