両親が亡くなったあと、私は資格を継いで、実家兼事務所を引き継いだ。
兄は現金の九割を、私は家と土地を相続した。
「だったら兄家族が住めばいいじゃない」と言ったのは兄の方だった。
条件は、兄嫁が私の昼食を作ること、私の子の面倒を仕事終わるまで見てくれること。
代わりに家賃はタダ。お互い納得して始まった——はずだった。
最初のうちは穏やかだった。
でも、数ヶ月もしないうちに、昼ご飯が冷凍唐揚げだけになった。
夕飯の準備も私が来てから慌てて始めるようになった。
「タダで住まわせてあげてるのに」と思いながらも、
兄に言って締めてもらっては、しばらく平穏が続き、また元に戻る。
その繰り返しを三度。
私は別に贅沢を言ってるつもりはない。
昼は汁物かサラダ+主菜一品、夜も副菜と主菜を出してほしいだけ。
でも彼女は笑いながら「まだ用意してなかった、ごめーん」と言う。
ごめん、じゃない。約束だったはず。
ある日、我慢の限界がきた。
「次に失礼な態度を取ったら、追い出すからね。出て行かないなら、家ごと売るから」
そう宣言したら、兄嫁は無言で私を見た。
その目は、私を「寄生虫」とでも言いたげだった。
たしかに、家に通って昼を食べる私は、外から見れば居候のように見えるかもしれない。
でも、私がこの事業を続けて、この家のローンも固定資産税も払ってる。
それを「タダで住む家」と思っているのは、どっちなんだろう。
人は「家族」って言葉に甘える。
でも、家族こそ、境界が曖昧なまま壊れていく。
お金と感謝が混ざると、もう何が正しいのかわからなくなる。
今はもう、冷凍唐揚げを見ただけで胸がざわつく。
あの日の「ごめーん」が、何より冷たかった。

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