通勤ラッシュの電車に、妊婦さんが旦那さんに支えられて乗ってきた。
人混みをかき分けて、旦那さんは空いた席を見つけ、優しく奥さんを座らせた。
その姿に、私もほっとした気持ちになった。
だがその隣には、白髪に中折れハットがよく似合う老紳士が座っていた。
背筋を伸ばし、気品を漂わせるその人は、二人の様子を静かに見ていた。
そして旦那さんが座ろうとせずに立ったままでいるのを見て、老紳士は穏やかに言った。
「隣にいてあげなさい。」
声は小さいが、しっかりとした響きがあった。
旦那さんは一瞬戸惑ったが、その言葉に背中を押されるように隣に腰を下ろした。
老紳士はにこりと微笑むと、ゆっくりと立ち上がり、ジャケットを整え、軽く一礼してから車両を降りていった。
その一連の動きは、何の押しつけもない、自然な優しさだった。
周りの人もみな静かに見守り、電車の中に少しだけ温かい空気が流れた。
妊婦さんへの配慮だけではなく、旦那さんへの「これからのための教え」でもあったのだろう。
「席を譲る」という行為以上に、「隣で支えること」の大切さを伝えた老紳士。
それは口数少なくても深く心に響くものだった。
こうした当たり前の優しさを、私たちはどれだけ持てているだろうか。
大げさでなくてもいい、気取らなくてもいい。
ただ誰かを思いやる心を、私も忘れずにいたい。
あの老紳士のように、さりげなく人に寄り添える大人になりたいと、心から思った出来事だった。
ユーザーレビュー :
1.素敵な紳士ですね。おいくつぐらいのかたでしたか?私が若い頃に高齢者だった明治生まれにはこういう男性は珍しくなくいました。今は戦後生まれでも80歳、団塊の世代以降でも昔ながらの紳士がいるのかぁ~。会ってみたいな。
2.素敵な光景ですね こういう方は、決してジジイ等と言われず 老紳士と呼ばれる…電車に乗るなり元気に優先席まで走って行き、具合が悪そうな人まで席から立たせる老害とはまるで違う世界で生きてるんだなぁ
3.淑女を守る紳士、淑女を守る騎士…いろいろ浮かんじゃいました。
…カッコ良いね。
4.心が洗われるような 温かいエピソードですね そんな人で ありたい… なかなか 出来ることではないけれど。 素敵な お話 ありがとうございました♡
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