俺が「ただいま」と玄関のドアを開けた瞬間、いつものように嫁が迎えてくれた。だが、その声にはどこか冷たさがあった。「送別会、どうだった？」と、彼女は軽く問いかけてきた。その質問に対して、俺は深く考えることもなく、「ん～、ただの付き合いだよ」と答えた。別に送別会が特別なイベントでもなかったし、会社の同僚たちとの形式的な集まりに過ぎなかったからだ。楽しいというより、義務感で参加したようなものだった。
だが、俺がそう言った直後、嫁の表情が一瞬曇ったように見えた。「そっか、残念だったね。何度もチャンスをあげたのに^^」と、彼女は少し皮肉めいた笑みを浮かべた。その言葉に、俺は一瞬戸惑った。「え？」と思わず聞き返したが、彼女はそれ以上何も言わなかった。
その笑みの裏に何か別の意図があるように感じた俺は、胸の中に違和感が広がるのを抑えきれなかった。
後からじっくりと話を聞いてみると、実は彼女が期待していた人物がその送別会には来ていなかったらしい。その人とは、嫁がずっと仲良くしていた友人だったが、何らかの理由でその夜は出席しなかったようだ。嫁は、その友人にもう一度会える機会を楽しみにしていたらしく、結局会えなかったことがとても残念だったという。
「ただの付き合いだよ」と言った俺の言葉が、彼女の期待を裏切る形になってしまったのだろう。俺はその瞬間、言葉の選び方を間違えたことを強く感じた。嫁がどれほどこの送別会に期待していたかを、俺は全く理解していなかった。彼女の気持ちに寄り添うべきだったのに、自分のことばかりを考えていた俺は、嫁との溝をさらに深めてしまったように感じた。
久しぶりにこうして嫁と話をしていると、不思議な安心感が俺の中に広がった。しばらく俺たちの間には、ぎこちない沈黙が続いていた。喧嘩をきっかけに、何かが壊れてしまったようだった。毎日の生活は同じように流れていくものの、会話は最低限のことしか交わさなくなり、互いに避けるような雰囲気が漂っていた。
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