あの日の出来事は、今でも夢に見るほど強烈に記憶に残っている。
それは、決算期の真っ只中。社内は文字通り修羅場で、泊まり込みや休日出勤が常態化していた。疲弊した空気が漂う中、昼休みのオフィスで事件は起きた。
デスクで仮眠を取っていた同期の男が、突然「あっ、うー……」とうめき声を漏らしたかと思うと、椅子から転げ落ち、バタバタと痙攣のような動きを見せた。すぐに数人で駆け寄ったが、声をかけても返答はなく、目も開かない。呼吸はあるものの、今にも止まりそうなほど浅かった。
「救急車呼ぶぞ!」私は反射的にデスクの電話を手に取った。しかし、通報しようとしたその瞬間、背後から上司の声が飛んできた。「ダメだ!○○は今日、仕事が山積みなんだぞ!」
そう叫ぶや否や、上司は私の手から受話器を奪い、通話を切った。呆然とした私がもう一度かけ直そうとすると、上司は再び電話線を引き抜き、「お前、何やってるんだ!」と詰め寄ってきた。
信じられないやりとりが続く中、後輩の女性社員が冷静に廊下に出て、自分のスマートフォンで119番してくれた。「通報しました」と戻ってきた彼女の一言で、私はようやく安堵した。
その直後、事態はさらに混乱する。通報を知った上司が激昂し、後輩に掴みかかろうとしたのだ。騒ぎを聞きつけて集まった他の社員たちが間に入り、ようやく上司を制止。私たちは救急隊からの指示に従い、倒れた同期の呼吸と心拍を確認し、胸骨圧迫と人工呼吸を行った。
結果的に、同期はエコノミー症候群による血栓が原因だったという。幸い処置が早かったおかげで大きな後遺症もなく、二週間後には職場に戻ってきた。
一方、あの上司はというと、事件後すぐに社内中に悪評が広まり、「人殺し」「人命軽視部署の象徴」などと陰口を叩かれ、最終的には減給処分のうえ子会社に左遷。そこでも噂が絶えず、やがて会社を辞めたと聞いている。
命が助かったのは本当に良かった。しかし、自分が行った人工呼吸の感覚は、今でも夢の中で私を襲う。あの唇の感触、呼吸が返ってくるまでの長い時間……どうしても忘れることができない。
働くことは確かに大事だが、それよりも大切なものがある。命を守るという、当たり前のことを見失ってはいけない――あの日の記憶は、今も私にそれを強く教え続けている。
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