ある日の夕方、私が住むマンションのエントランス前に、救急車が止まっていた。なにか異変があったのかと様子を見ていると、搬送されようとしているのは、同じ階に住む若い奥さんだった。ヨチヨチ歩きの幼い子供と、夫と見られる男性がその場に立っていた。
救急隊員が奥さんをストレッチャーに乗せ、車内に収容しようとしている時、夫は隊員にこう尋ねた。「何時に戻せます?」それに対して隊員は冷静に、「いや、これは即入院ですね」と告げた。次の瞬間、夫の表情が一変し、救急車の中の奥さんに向かって怒鳴り始めた。「おい!入院なんてされても困るよ!子供どーすんだ!5時までには帰れよ!」
その瞬間、私の口から思わず「えっ!」という声が漏れた。
想像以上に大きな声だったようで、夫はこちらを振り返りながら勢いそのままに、「なんだよ!!」と凄んできた。私は驚きつつも思考が追いつかず、「えっ、だってすごいから!すごくないですか!」と、わけのわからない返答をしてしまった。
その場に居合わせた住人たちも、明らかに動揺していた。「まぁ…」「すごいっちゃすごいよ…」「うん」と、誰もが戸惑いながら小声でつぶやいていた。その空気に、夫はさらに苛立ちを募らせていた。
救急隊員に「もういいからお子さんこっちにください」と夫から子供を受け取り、奥さんと一緒に救急車に乗せた。隊員は奥さんに向かって、「ご実家は近いですか?ご家族と連絡は取れますか?」などと優しく声をかけ、扉を閉めて搬送していった。
一方で、怒りの矛先を私に向けてきた夫がこちらに向かって歩み寄ってきた時、住人の自治会に関わる男性たちと女性たちが素早く囲み、彼に対して厳しく注意をしてくれた。その隙に、私は「部屋がバレないように」と住人の一人に促されてその場を後にした。
あの場面を思い出すたびに、あの夫が素足でタンスの角に小指をぶつけますようにと、つい祈ってしまう。
幸いなことに、その後、直接の接触はない。ピンポンが鳴ることもなく、警戒しながら日々を過ごしている。
数日後、ゴミ捨て場で自治会の女性に声をかけられ、心配してくれた上に、連絡先や部屋番号まで教えてもらった。見ず知らずの私にここまで気を配ってくれるとは思わず、胸が熱くなった。
あの時、夫は子供を抱っこすることもなく、手をつなぐことすらせず、ただ横に立たせていただけだった。隊員が連れて行ってくれて本当に安心した。おそらく、子供はまだ2歳前後だろう。
できることなら、あの夫が深夜のエレベーターで長い髪の幽霊に出会って、そのままエレベーターが故障して閉じ込められるくらいの目に遭えばいい。そんな思いを胸に、私は今日も静かに暮らしている。
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