バイト先の小さな店で起こった出来事は、私にとって忘れられないものとなった。その日、中学生の少年が店内で万引きをしているのを見つけ、私と店長はすぐに彼を捕まえた。少年は怯えた表情を浮かべながら何も言わず、ただ目を伏せていた。私たちはとりあえず警察と親に連絡を入れ、三人で警察の到着を待つことになった。
しばらくすると、店のドアが勢いよく開かれ、少年の母親が怒鳴り込んできた。彼女の顔は怒りで真っ赤になっており、その声は店内に響き渡るほどだった。
「うちの子の将来をどうしてくれるんだ!訴えてやる!」
彼女の叫び声は、店内の静けさを一気に打ち消した。
私は彼女の言葉に驚き、これが世に言う「モンスターペアレント」なのかと感じた。少年の母親は、息子の行為を全く反省せず、自分の怒りをひたすらぶつけるだけだった。
「子供のしたことなんだから、大目に見てくださいよ!」
その瞬間、これまで黙っていた店長がゆっくりと口を開いた。その声には、強い意志と冷静な怒りが込められていた。
「その言葉は、やられたほうが許すときに使う言葉です。」
母親は一瞬驚いた顔をしたが、店長はそのまま続けた。
「確かに、子どもには責任がないかもしれません。しかし、それならばその責任は親であるあなたが負うべきでしょう。本当に子どもの将来を考えている親なら、子どもが二度と同じ過ちを繰り返さないようにしっかり叱り、迷惑をかけた相手に心から謝罪するものです。
そして、子どもと一緒に償いの方法を考えるのが親の役目ではないでしょうか?」
店長の言葉は、まるで彼女の心の中に深く突き刺さるようだった。彼の言葉は正論であり、誰が聞いても納得できるものであったが、それだけに厳しくもあった。
「あなたがこうして騒いでいるのは、自分が悪く言われたくないからであり、結局は自分のことしか考えていないのではありませんか?」
店長の言葉に、母親は何も言い返せなかった。その表情は一瞬で蒼白になり、唇を震わせたまま言葉を失っていた。少年はその横で、涙を流しながらうつむいていた。
店内は再び静寂に包まれ、しばらくして警察が到着した。警察官は手早く状況を確認し、中学生とその母親を店の外へ連れ出していった。母親は去り際に何か言おうとしていたが、結局何も言えず、ただ少年の肩を強く引っ張って連れて行かれた。
その後、私は店長に「すごいですね、あんなふうに言えるなんて」と話しかけた。
店長は微笑みながら答えた。
「子どもを守るという意味を履き違えている親が多いんだ。子どもを守るっていうのは、ただ甘やかすことじゃない。本当に守るっていうのは、子どもが成長するために必要なことを教えることなんだ。」
その言葉を聞いて、私は心の中で深く感銘を受けた。店長の言葉には、ただの正義感以上のものがあった。彼の目には確かな信念が宿っていた。
その夜、私は家に帰ってからも、店長の言葉を何度も思い返していた。彼が放った一言一言が、まるで真理のように心に響いてきたのだ。彼のような人がいる限り、この世の中も捨てたもんじゃないと思えた。
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