ゴールデンウィークの混雑した新幹線。指定席を購入していた俺は、いつものように東京に向かって出発する予定だった。しかし、その日、俺を待ち受けていたのは予想外の事態だった。
新幹線がホームに到着し、俺はチケットを手に自分の指定席へと急いだ。混雑を避けるために事前に指定席を取っていたので、安心して座れるはずだった。しかし、席に到着すると、そこには見知らぬ男が座っているではないか。男は何食わぬ顔で席に座り、しかも狸寝入りを決め込んでいるようだった。
最初は穏やかに、席を譲ってもらおうと声をかけた。「すみません、ここは僕の指定席です」。しかし、男は微動だにせず、まるで聞こえていないかのように完全無視を決め込んでいた。これには少々驚いた。普通、席が間違っていると気づいたらすぐに立ち去るものだと思っていたからだ。
俺は少し強めに、今度は肩を揺らしてみたが、男はまるで石のように動かない。しかも、薄目を開けて俺をちらちらと見ているのが明らかだった。完全に狸寝入りを決め込み、退こうとはしない。俺はますますイライラしてきた。
さらに不運なことに、男のケータイが何度も鳴り響く。メールか着信かはわからないが、そのたびに男はケータイを取り出したそうにしていたが、俺が隣にいるので、なかなか確認することができないようだった。その苛立ちが男の表情に徐々に現れてきた。
「イライラするなら、さっさと立てばいいのに…」俺はそう思いながらも、男が立ち去る気配が全くない状況にますます腹が立ってきた。
ここでふと思った。「このままではラチがあかない」。混雑するゴールデンウィーク、車内は満員で他の席も埋まっているだろうし、車掌もなかなか来ない。
とはいえ、この男が意地でも席を譲る気がない以上、俺はどうすることもできなかった。
しばらく我慢していたが、耐えられず、車掌を呼びに行く決断をした。
「すみません、指定席に座っている男がいて、席を譲ってくれません」。事情を話すと、車掌は嫌な顔をせず、すぐに俺の席まで来てくれた。
車掌が現れるやいなや、狸寝入りを続けていた男はついに目を開け、バツが悪そうに立ち上がった。明らかに勝ち目がないことを悟ったのだろう。無言で席を立つその姿は、どこか哀れだった。車掌が男に「指定席のチケットを確認します」と言うと、男は何も言わずに車内の奥へと消えていった。
車掌は軽く会釈をして俺に謝罪し、俺はようやく自分の席に座ることができた。車内の空気は少し落ち着きを取り戻し、俺もようやくリラックスできる状況になった。
この出来事は、俺にとって教訓となった。指定席を確保していても、他人が勝手に座ってしまうことがあるという現実。そして、毅然と対応しなければならないということだ。車掌を呼ぶのは一つの方法だが、それ以前にしっかりと自分の権利を主張することが大切だと実感した。
この後、男がどうなったかは分からない。もしかしたら、次の駅で降ろされてしまったかもしれないし、車内で他の座席を探したかもしれない。しかし、これからは絶対に自分の指定席を他人に譲らないようにすることを固く決意した。
新幹線でのこのようなトラブルは、誰にでも起こりうるものだが、その時に冷静に対処できるかどうかが鍵となる。
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