出産のために実家に帰った日々。父と母は働いており、昼間は祖父と二人きりで過ごすことが多かった。庭に椅子を出して、のんびりと祖父とおしゃべりをしていると、突如として現れたのは、近所の小学3～4年生くらいの男の子だった。実家は昔ながらの農家で、垣根はあれど特に門などはなく、男の子が簡単に庭に入ってくるのも珍しくはなかった。
祖父はその子を見ると、「もう昼だから帰れ〜。飯は自分ちで食べろ」と、いつものように優しく追い返そうとしていた。しかし、この男の子、実は前にも勝手に庭に入っては盆栽の鉢を割ったり、犬の鎖を外そうとしたり、さらにはカマで窓ガラスを割るなど、トラブルを起こしていた子だったのだ。
そんな過去があるため、祖父は彼に警戒していた。
男の子は庭をうろうろしていたかと思うと、突然全力で走り出し、私に向かってタックルしてきた。私は臨月で体重が15キロも増えていたが、倒れることはなく、何とかその場に立ち続けることができた。しかし、祖父はすぐにその状況に気づき、怒りをあらわにして男の子の頭をちりとりで引っぱたいた。「二度と来んな！」と叫びながら、男の子を道路の方へ追いかけていった。
その日の夕方、予想もしなかった展開が待っていた。男の子の母親と、「弁護士」を名乗る男性が家に訪ねてきた。母親は言葉を荒げて、「うちの子には障がいがある、他の子と違う！悪気はなかった！弱者に優しく接するのが社会のルールだ！治療費をよこせ！」とまくしたてた。
私は驚き、どう返答していいのか分からずにいたが、祖父は一切怯むことなく、冷静に反論を始めた。「他の子と違うのがわかっているなら、なぜその子に特別な教育をしないんだ？悪気がないならなおさら悪い。自分の行動が他人に与える影響がわからないなんて、非常に問題だ。『弱者、弱者』と騒ぐが、本当に弱い人間が自分を『弱者』だとアピールするか？」祖父は次々と厳しい言葉を投げかけた。
さらに続けて、祖父は「それから、弁護士だかなんだか知らんが、どこの事務所の人間だ？お宅の会社じゃ、相手の都合も考えずに突然訪問するような教育をしてるのか？治療費を払えと言うなら、まずは診断書を持ってこい。その前に、うちのガラス代、盆栽代、梅五郎の小屋の修理代を払ってもらわなきゃな」と言い放った。男の子が壊したものについても、しっかりと要求をしていた。
そして、祖父は冷静に「証人は隣の夫婦がなるって話もついてるから」と、すでに近所の人々にも協力を頼んでいたことを伝えた。母親は「こんな田舎、もう引っ越してやる！」と捨て台詞を吐きながら帰ろうとしたが、祖父は一言、「ああ、それがいいな」と答えた。
その言葉に母親は怒りを爆発させ、肩を怒らせて帰っていった。
後から聞いた話では、「弁護士」を名乗っていた男性は実は母親の愛人であり、ヒモだったということだ。近所のじいちゃんやばあちゃんたちの格好の噂のネタとなり、ちょっとした話題になった。ちなみに「梅五郎」は私たちの愛犬で、あの日も元気に小屋で寝ていた。
そしてその5日後、私は無事に男の子を出産し、実家にしばらく滞在していた。その間に、母子は本当に引っ越していたことがわかった。祖父は普段、非常にゆっくりとした動作で、話し方も穏やかな人だが、あの時だけは見事な素早さで男の子を追いかけ、そして母親に対しても鮮やかな返しを見せてくれた。あの出来事は、私にとって非常に印象深い出来事であり、祖父の強さを再認識させられた瞬間でもあった。
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