数年前のこと。私は転職活動の一環で、ある中小企業の中途採用面接を受けた。面接自体は特に問題なく終わったが、返事が遅いのが少し気になっていた。
そして、面接から2週間後、ようやくその会社から電話がかかってきた。受話器を取ると、電話の向こうから事務的な声で「あなたは不採用です」とだけ告げられた。
不採用であれば通常は書面で通知が来るものと思っていたので、やや意外ではあったが、「分かりました。ご丁寧にお電話ありがとうございます」と礼を述べ、電話を切ろうとした。
その瞬間、担当者が唐突に「待ってください」と言い出した。「……それで、本当にいいんですか?」
突然の問いかけに戸惑いながら、「え?何が“いい”のでしょうか?」と聞き返すと、「詳しいことは別の者から説明します」と言われ、保留音に切り替わった。
受話器の向こうから流れてくる音楽を聞きながら、私は何が起きているのか理解できずにいた。
5分ほど待たされた挙げ句、「担当が少し取り込み中なので、またこちらからかけ直します」とだけ告げられ、通話は一方的に切られた。
結局、その日は電話はかかってこなかった。翌日、再びその会社から着信があった。今度の相手は、面接で対応してくれた中年の男性だった。
「昨日も伝えましたが、不採用です。ただ…君はなぜ、“どこが悪かったか”を聞かないんだ?本当にやりたい仕事なら、ボランティアでも構わないから体験に来たいと思うだろう?ガッツが足りないんじゃないか?」唐突に“熱意”の話になり、まるで叱責されているような口調に戸惑いを隠せなかった。
正直、意味が分からなかった。すでに別の会社から内定をもらっていたため、「次の就職先が決まっているので大丈夫です」とだけ伝えた。
すると、相手の声色が一変し、怒気を含んだ口調でこう言った。「どうしてうち以外の会社を受けてるんだ!非常識だろう!」
もはや開いた口が塞がらなかった。合否の結果は「1週間以内に連絡する」と言われていたにもかかわらず、すでに2週間も経過していたのだ。
「1週間たっても連絡がなかったので、他社を受けただけです。それでは失礼いたします」と言って、こちらから電話を切った。
不採用通知の電話でここまでゴタゴタすることがあるのか。いちいち問い詰められるなど想像もしていなかった。
これが「実質的な二次面接」のつもりだったのだろうか?少なくとも、ここまでして働きたい会社ではないと、その時強く感じた。
確かにその会社は求人情報では「待遇が良い」と謳われていたが、私が見ていた限り、常に募集を出していた。今回のような対応を目の当たりにして、「きっと辞める人が多いのだろう」と妙に納得してしまった。
その一年後、たまたまその会社の前を通ったとき、社名が別のものに変わっていた。
――ああ、やっぱりね。私の中で、その一言だけが静かに響いた。
企業の本質は、こうした何気ないやり取りの中に現れるものだ。どんなに条件が良く見えても、対応ひとつでその信頼は簡単に崩れる。そしてそれを見抜くのは、意外にも「不採用」の瞬間だったりするのかもしれない。
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