大学時代の友人A子が結婚した。
披露宴はしない代わりに「お披露目パーティ」を二度開くと聞いていた。一度目は親族向け、二度目は友人を集めてのカジュアルな披露宴代わり。きちんとしたホテルを会場に選び、招待状も正式に送られてきた。だからこそ、私たち友人一同はご祝儀を包み、華やかな服装で駅に集合し、胸を弾ませながら会場へと向かったのだった。
エントランスに立っていたのは、新郎新婦。両手を広げてゲストを迎え入れる姿は、まさに祝福ムードの中心にふさわしかった。ところが――私たちが「おめでとう!」と言葉をかける前に、A子が唐突に放った言葉がその場の空気を一変させた。
「何しに来たの?呼んでないよ。」
一瞬、耳を疑った。もちろん招待状は手元にある。悪い冗談だろうと考え、「またまた、冗談でしょ」と笑って受け流そうとした。だが、A子はさらに顔をしかめ、今度は鋭い声で言い放ったのだ。
「何笑ってんのよ!帰りなさいよ!」
場の空気が凍りついた。新郎が慌てて「ちょっと、それは…」と制止したが、彼はどこか苦笑いを浮かべるばかり。周囲のゲストたちは「何者なんだろう、あの人たち…」とでも言いたげに、冷ややかな視線をこちらに向けてきた。
A子は私たちを置き去りにしたまま、別の友人のもとへ駆け寄り、満面の笑みで「来てくれてありがとう!」と声を弾ませていた。その姿を見ながら、胸の奥に込み上げる羞恥と屈辱を抑えることができなかった。
A子は学生時代から辛辣な冗談を飛ばすタイプだった。彼女なりの“ジョーク”である可能性は頭をよぎった。けれども、招待された客としては到底笑って済ませられない。私たちは居心地の悪さに耐えきれず、結局そのまま全員で会場を後にした。
帰り道、誰も口を開かなかった。
胸に渦巻いていたのは「どうしてあんな仕打ちを?」という疑問と、言葉にできないほどの気まずさだけだった。
数日後、A子から電話がかかってきた。
「どういうつもりで途中で帰ったの?みんな楽しみにしてたのに!」
「場を盛り上げるためにちょっと冗談を言っただけでしょ!」
彼女の言い分はこうだった。――「私のジョークを真に受けて帰るなんて、大人げない。せっかくの場を台無しにしたのはあなたたちだ。」
しかし、あの場にいた誰もが傷つき、恥をかかされた。笑って許せるような冗談ではなかった。抗議の電話は何度も続いたが、やがて私たちは着信を拒否し、A子との連絡を絶った。他の友人たちも同じように、彼女から距離を置いていった。
新婦の言い分は「ただのジョーク」だった。だが、その一言が友情を壊し、彼女自身の信頼を失わせる結果となったのだ。
結婚という晴れ舞台は、本来ならば周囲に祝福されるべき日。
だが、A子にとってその舞台は、周囲を傷つける冗談を繰り返す場所になってしまった。新しい人生の門出を飾るはずのパーティが、彼女と旧友たちとの決別の場になったのは、皮肉としか言いようがない。
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