「ド田舎の四流大卒はさ、いつ辞めてもいいんだぞw」
会議室の空気が凍った。笑っているのは、コネ入社で出世したエリート部長だけ。周囲は目を伏せ、見て見ぬふりをした。
俺は地方の国立大を出て、現場上がりで営業から企画に這い上がった。学歴も家柄も武器にならない分、数字と改善提案で評価を取りにいくしかなかった。だがその努力すら、部長にとっては“田舎者の足掻き”でしかないらしい。
「……了解です」
俺は席を立ち、淡々と言った。
「じゃ、辞めますね」
部長の笑いが途切れた。
「は? はは、何言ってんだよw 冗談に決まってるだろ」
だが、冗談に聞こえなかったのは、これが初めてではなかったからだ。
会議のたびに人格否定、成果は横取り、失敗は押し付け。もう十分だった。俺はその場で退職届を提出し、パソコンと社員証を返却して会社を出た。
帰宅してスマホを見ると、着信履歴が異常だった。
部長からの不在着信、十件、三十件、七十件……夕方には百を超え、翌朝には百七十件を超えていた。まさに鬼電だ。だが俺は一切出なかった。理由は単純で、言うべきことは全部、退職届に書いたからだ。
三日後、前職の同僚から短い連絡が来た。
「部長、社長室に呼ばれて青ざめてた。君の案件、全部止まったらしい」
俺が担当していたのは、地方工場の生産管理を刷新する大型プロジェクトだった。現場との調整、協力会社の折衝、納期の見直し――全部、俺が泥をかぶって回していた。部長はその成果だけを上に報告し、俺を“替えのきく部品”扱いしていたのだろう。
ところが実際は、引き継げる人間がいなかった。
さらに翌週、知らない番号から着信が入った。会社の代表番号だ。留守電には、社長の硬い声が残っていた。
「木村君、戻ってくれ。条件は相談する」
俺は再生を止め、スマホを伏せた。部長の“いつ辞めてもいい”は、俺にとって許可証だった。
だから俺は辞めた。結果、困ったのは俺ではない。
人を見下して笑った代償を、組織全体で支払うことになっただけだ。
その夜、窓の外の街灯を眺めながら、俺は静かに息を吐いた。
もう、誰の嘲笑にも振り回されない。次は、実力を正当に扱う場所で働く。そう決めた瞬間、胸の奥が不思議なほど軽くなった。
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