「後輩の企画を横取りするとはな。低学歴はモラルも信頼もゼロだ」
その言葉が、朝礼の会場に響いた瞬間、場の空気が一気に凍りついた。
営業部係長の俺――柿田は、壇上に立つ上司・落合部長の手元を、ただ呆然と見つめていた。
次の瞬間、彼は俺が提出したプレゼン資料を、社員全員の前で無造作に破り捨てたのだ。
俺は三十歳。家が貧しく、高校進学も叶わず中卒で社会に出た。
幸い、当時の会社は学歴に偏見がなく、現場で結果を出すことで少しずつ信頼を積み上げ、係長にまでなった。
だが、会社が急成長し、人が入れ替わり、社長も代替わりした頃から、空気は一変した。
外部からヘッドハンティングされてきた落合部長。
彼は俺が中卒だと知った瞬間から、露骨に見下す態度を隠さなくなった。
些細なミスを針小棒大に責め立て、人格や育ちまで否定する。
反論できない立場をいいことに、俺を“見せしめ”として扱っていた。
さらに追い打ちをかけたのが、新入社員の小林だった。
落合部長と同じ大学、同じサークル出身というだけで厚遇され、俺に仕事を押し付け、平然と成果を横取りする。
部長はそれを咎めるどころか助長し、二人は一体となって俺を貶めていった。
そして迎えた、あの日の朝礼。
落合部長は、小林を成績優秀者として称賛した後、突然俺を名指しした。
「係長に任せていた企画だが、中身は新人の案の盗用だった」
身に覚えのない罪を着せられ、弁明する間もなく資料を破り捨てられる。
背後から、小林が小さな声で囁いた。
「反面教師にします」
その一言で、すべてを理解した。
これは偶然でも誤解でもない。最初から仕組まれた公開処刑だった。
朝礼後、落合部長は勝ち誇ったように言った。
「もうお前の味方はいない。大人しくしていれば、これ以上はやらない」
――その瞬間、俺の中で何かが完全に切れた。
「そうですか。じゃあ、辞めますね」
俺は淡々とそう告げ、退職願を突き出した。
引き止めようと怒鳴る部長に、労基という言葉を出すと、彼は黙り込んだ。
一か月後、会社を去った俺の元に、落合部長から電話がかかってきた。
破り捨てたプレゼン資料のデータが欲しいという。
小林の作った資料では、取引先から厳しいクレームが入ったらしい。
だが俺はもう、その会社の人間ではない。
事実、俺はすでに、かつての上司・江藤部長が立ち上げた新会社で働いていた。
学歴ではなく、人を見てくれる場所で。
数か月後、元の会社は業績悪化で事業売却とリストラを発表。
落合部長と小林も対象になったと聞いた。
俺は今日も忙しい。
だが、胸を張って仕事ができている。
それだけで、もう十分だった。
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