新婚の息子が23歳という若さで他界してから、我が家は時が止まったような静寂に包まれていた。息子の妻である加奈子さんの嗚咽が響く中で行われた葬儀の最中、信じられない光景を私は目にした。
加奈子さんの実母・明美が、悲しみに暮れる娘の肩を叩くどころか、冷ややかに鼻を鳴らしてこう言い放ったのだ。
「あんた、もうあっちの家に嫁いだんだから、今さら実家に帰ってくるなんて言わないわよね? 可愛くもない、器用でもない、ろくに金も稼げないような娘に帰ってこられても困るのよ。……ああ、言い間違えたわ。娘だなんて、もう思っていなかったわ。これから先、あんたがどうなろうと知ったことじゃない。二度と連絡してこないでちょうだい。じゃあ、さようなら」
実の親から浴びせられるあまりの暴言に、私は耳を疑った。葬儀の席で、それも最愛の夫を失ったばかりの娘に向かって言う言葉ではない。加奈子さんが以前から「両親とはうまくいっていない」と話していたことを思い出し、胸が締め付けられるような憤りを感じた。
私は震える加奈子さんの手を取り、「娘として引き取るから、一緒に暮らそう」と誓った。
しかし、その決断が、亡き息子の部屋に隠された「恐ろしい真実」を暴くことになる。
加奈子さんが息子の遺品を整理していた時だった。部屋から加奈子さんの悲鳴が聞こえた。駆けつけると、彼女は数冊のノートを抱えて腰を抜かしていた。それは、息子が最期まで抱え込んでいた苦悩の記録――日記だった。
ノートの頁をめくる私の手は震えた。そこには、結婚当初から明美が息子に対し、執拗に金を要求し続けていた証拠が記されていた。「お金を払うのが嫌なら、娘との結婚を破断にさせる」「感謝してほしいくらいだわ」といった、あまりに高圧的な脅迫の言葉の数々。
社会人になったばかりの息子が、愛する妻を守るために、義母の理不尽な要求に一人で耐え続けていたのだ。過度なストレスで体を壊し、誰にも相談できずに逝ってしまった息子。その心中を思うと、私は涙を止めることができなかった。
後日、私たちは直接明美の元へ乗り込んだ。明美は息子が他界したことを伝えても、「正直迷惑なんですけど」とヘラヘラと笑ってみせた。私は隠し持っていた日記を突き出した。
「あなたが始めたことがきっかけで、取り返しのつかないことが起きてるのよ」
明美は表情を一変させたが、それでも「お小遣い程度の仕送りもできない男には、娘をやる資格がないと言っただけ」と開き直った。
その瞬間、私は怒りで理性が飛びそうになった。しかし、私の脳裏には、いつも優しく微笑んでいた息子の顔が浮かんだ。彼なら、ここで暴力に訴えるようなことは望まないだろう。
深呼吸をして、私は冷徹に言い放った。「あなたとはもう話しません。この振込記録と日記を警察に提出します。あとは法廷で話しましょう」
その言葉を聞いた瞬間、明美の顔から血の気が引いていった。彼女は泣きながら土下座を繰り返したが、私は冷たく背を向けた。
現在、明美は脅迫の罪で逮捕され、他にも複数の犠牲者がいたことが判明している。彼女からは謝罪の手紙が何度も届くが、すべて保身のための言い訳ばかり。私はそれらをすべて破り捨てている。
加奈子さんと二人で暮らす生活は、決して息子がいた頃の幸せな日常には戻らない。しかし、ノートを読み返すたび、息子が加奈子さんとの生活を心から愛していたことを知る。
「お母さん、明日はビーフシチューを作りましょう。浩二くんが大好きだった、あの味を」
加奈子さんの言葉に、私は頷く。三人しかいない食卓に、あえて四人分の材料を買う。それが、私たちに残された、息子への弔いであり、明日を生きていくためのささやかな希望なのだ。
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