田舎で一人暮らしをしている祖母には、先祖代々受け継いできた畑と山がある。四季折々の作物を育てるのが祖母の生きがいだが、最近、その豊かな実りに目をつけた「不届き者」が近隣の新興住宅地から頻繁に出没するようになった。
彼らは祖母を「田舎の寂しがり屋な老女」と勝手に決めつけ、あわよくば作物を無料でせしめようという魂胆だ。祖母は「おばあちゃん」と甘ったるく呼ばれることを何よりも嫌い、彼らのあつかましい接近を冷静に受け流しつつも、作物は一粒たりとも渡さないという毅然とした方針を貫いていた。
そんなある日、私が祖母の家に遊びに行き、頼まれて畑でスイカを収穫していた時のことだ。静かな農作業を切り裂くように、見知らぬ子供が駆け寄ってきてこう叫んだ。
「泥棒! 泥棒だ!」
何事かと驚いていると、間髪入れずにその母親らしき女が現れた。見るからに世俗的な欲望にまみれた風貌で、彼女は私を射抜くような鋭い視線で睨みつけた。
「ちょっと、あんた! うちの畑で何してるの?」
耳を疑う発言だった。ここが祖母の畑であることは明白だ。私が困惑していると、女はさらに厚顔無恥な要求を突きつけてきた。
「まったく、油断も隙もないわね。警察に通報してもいいんだけど……まあ、もう採っちゃったものは仕方ないわね。特別に3千円で買い取らせてあげるから、そのスイカを渡しなさい」
そう言って、平然と手を差し出してきたのだ。私は唖然とし、思わず失笑を漏らしてしまった。
「……何を言っているんですか? ここは私のおばあちゃんの畑です。なぜ他人の畑で採れたスイカに対して、あなたにお金を払わなければいけないのですか? むしろ、不法侵入と恐喝で通報されるべきなのはあなたの方ですよ」
その言葉を聞いた瞬間、女は凍りついたように動きを止めた。数秒の沈黙の後、彼女は気まずさを隠すように私の肩を強く叩き、取り繕うような笑顔を向けた。
「嫌だわ、冗談よジョーク! 最近、泥棒が多いから気をつけて見回ってただけなのよ」
まるでこちらが悪かったかのような言い草。私はその日のうちに祖母へ全てを報告した。幸い大きな実害はなかったようだが、その女の一家は地域でも孤立しており、近所付き合いも皆無だったという。祖母はそれ以降、彼女に対して完全に「無視」を決め込んだ。相手にせず、徹底的に排除する。その姿勢が功を奏したのか、それ以来、彼女らが畑に近づくことはなくなった。
祖母曰く、こうした盗難を未然に防ぐ最も効果的な方法は、『農薬・劇薬散布中』という看板を立てておくことだそうだ。
「本当に欲しいと言われれば分かち合うこともあるけれど、盗むのは絶対に許さない」
これが祖母の信念だ。実際に「通報するぞ」と書いてあっても、盗むような人間は一定数存在する。彼らは、まさか本当に通報されるとは思っていないのだろう。だが、実際に警察を呼ぶのが最も効果的であり、唯一の解決策だ。
自分の権利を不当に踏みにじられる必要はない。私たちは「当たり前の常識」が通用しない相手に対して、毅然と拒絶し、法的手段を選択する勇気を持つべきなのだ。あの日のスイカ泥棒騒動は、所有権という概念すら通用しない厚顔無恥な人間たちに対する、私たちなりのささやかな「防衛」の記録である。
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