先日、知人の家に行くために、いつもの団地の1階にある集合ポスト前を通りかかった。
薄曇りの午後。風が少し冷たい。足元のタイルが湿っている。
ふと目をやると、掲示板に一枚の貼り紙が目に入った。
「毎晩の様に高田さんの奥さんの喘ぎ声が聞こえてきて安眠を妨げられています…」
文字だけで、明らかに異様な内容。
最初は、何かの冗談かと思った。
でも紙はきちんと掲示され、透明な押しピンで固定されている。
周囲には誰もいない。風にわずかに揺れる紙が、不気味さを増幅させる。
私は思わず近寄った。
文字を一行ずつ読みながら、背筋がゾクゾクする。
「今後も聞こえてくる様なら、証拠として録音してありますので…」
録音? まさか。
団地内のプライベートな生活が、ここまで暴露されるのか。
心の中で、笑いと恐怖が混ざる。
「高田さん、どんだけやってるんだ…」
思わずつぶやく。
隣の郵便受けに手をかけると、指先が冷たく震えた。
私の脳裏に浮かぶのは、夜中に漏れる声に悩む住民たちの苦悩。
管理人の苦悩。
そして、本人たちは一体この貼り紙を知っているのか、知らないのか――。
私は少し身を引き、周囲を見渡す。
誰もいない。空気が重く、沈黙だけが支配している。
記事はまだ終了していません。次のページをクリックしてください
記事はまだ終了していません。次のページをクリックしてください
次のページ