定食屋に入った時、私は何も特別なことをしていなかった。
一人で席に座り、普通に注文した。
料理が来るまで待った。
出された定食を食べた。
味は悪くなかった。
むしろ、いつも通りの昼ごはんだった。
皿は空になり、味噌汁の椀も置いた。
「ごちそうさまでした」
そう言って席を立とうとした時、テーブルの端に置かれていた細長い紙が目に入った。
最初は会計伝票だと思った。
席番号か、注文確認のメモか。
そう思って何気なく手に取った。
でも、そこに書かれていた文字を見た瞬間、指が止まった。
注文名ではない。
金額でもない。
客に見せるための言葉でもない。
雑に書かれた、悪口のような一言。
一瞬、意味が分からなかった。
いや、分かりたくなかった。
これ、私のこと?
そう思った瞬間、顔が熱くなった。
さっきまで普通に食べていた店内が、急に冷たく感じた。
店員は普通の顔で水を運んでいた。
厨房からは食器の音がしていた。
周りの客は何も気づいていない。
でも、私はその紙から目を離せなかった。
もしかしたら、別の意味かもしれない。
たまたま書かれたメモかもしれない。
そう思おうとした。
でも、伝票の流れ。
置かれていた場所。
私が座っていた席。
全部を考えると、偶然だとは思えなかった。
私は紙を握りつぶしそうになった。
でも、すぐに手を止めた。
ここで怒鳴っても、きっと言われる。
「そんな意味じゃありません」
「スタッフ間のメモです」
「勘違いです」
「誰が書いたか分かりません」
そうやって流されるのが見えた。
だから私は、まずスマホを出した。
伝票の写真。
テーブルの上の状態。
食べ終わった食器。
店内の様子が分かる範囲。
そしてレシート。
全部、静かに撮った。
その後、紙を折らずに財布へ入れた。
証拠として持ち帰るためだった。
会計の時、店員はいつも通りだった。
「ありがとうございました」
その言葉が、妙に白々しく聞こえた。
私は何も言わなかった。
言ったら、その場で紙を取り上げられる気がした。
外に出てから、ようやく大きく息を吐いた。
悔しかった。
情けなかった。
怒りもあった。
でも一番強かったのは、恥ずかしさだった。
普通に食事をしただけなのに。
お金を払っている客なのに。
裏でそんなふうに書かれていたのかと思うと、胃の奥が重くなった。
家に帰ってから、もう一度紙を見た。
やっぱり、見間違いではなかった。
私はレシートと一緒に写真を整理した。
来店時間。
席の位置。
注文したもの。
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