夜行フェリーへ乗ったのは、長距離移動を少しでも楽にするためだった。
雑魚寝の大部屋では、荷物が心配になる。
周囲の物音で眠れない可能性もある。
翌朝から予定も入っていた。
だから私は、追加料金を払って一人用の個室を予約した。
ベッド。
洗面台。
机。
テレビ。
そして大型のスーツケースを室内で管理できる部屋。
予約ページには、そう案内されていた。
乗船後、指定された部屋へ向かった。
カードキーをかざし、ドアを開ける。
最初に感じたのは、
「思ったより狭いな」
という違和感だった。
左には一人用のベッド。
右には小さな机。
手前には洗面台。
設備自体はそろっている。
けれど、床の空間がほとんどなかった。
大型スーツケースを室内へ入れた瞬間、ベッドと壁の間が完全に塞がった。
ドアを開閉するにも、毎回スーツケースを立て直さなければならない。
机へ行くにも、横向きになって通る必要がある。
ベッドの下へ入れようとしたが、高さが足りない。
壁際へ寄せても、キャスターが通路へ出る。
私は何度も置き方を変えた。
縦。
横。
取っ手を縮める。
それでも駄目だった。
その時、部屋の確認に来た乗務員が、スーツケースを見て言った。
「その大きさですと、廊下へ出していただいた方がいいですね」
私は耳を疑った。
「廊下ですか?」
「はい。室内だと通れないので」
確かに、今の状態では通りにくい。
でも、だからといって荷物を共用廊下へ放置するのは不安だった。
貴重品だけ抜けばいいという話ではない。
着替え。
仕事道具。
旅先で必要な物。
全部が入っている。
それに、通路へ大型荷物を置けば、ほかの利用者の邪魔にもなる。
私は乗務員へ聞いた。
「この部屋、大型荷物を室内に置けるタイプですよね?」
乗務員は部屋を見回し、少し困った顔をした。
「個室ですが、広さには限りがありますので」
「予約ページには室内保管できると書いてありました」
「多少、表現が分かりにくかったのかもしれません」
その一言で、胸の奥がざらついた。
分かりにくかった。
その言葉で終わらせるつもりなのか。
私は狭い部屋へ文句を言いたいわけではない。
最初から、
「大型スーツケースを置くと通路が塞がります」
と書いてあれば、別の部屋を選んでいた。
荷物の小さい日に利用したかもしれない。
でも今回は、荷物を室内に置けると確認して予約した。
私はスマホを取り出した。
予約完了メール。
予約時の画面。
部屋タイプの説明。
スクリーンショットも残っている。
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