興信所の男は、感情を挟まない声で告げた。
「奥さんは黒です。相手の男は、現職の警察官です」
その瞬間、俺の中で何かが静かに崩れた。
妻の由香とは結婚して八年。
娘の結衣が生まれた時、俺は人生で一番幸せだと思っていた。
小さな手を握りながら、この子のためなら何でもできると本気で思った。
だが、興信所から渡された写真には、由香が見知らぬ男と腕を組み、ホテルへ入っていく姿がはっきり写っていた。
しかも、その男は交番勤務の警察官、杉浦だった。
俺は怒鳴らなかった。
その場で問い詰めることもしなかった。
ただ一つだけ、確認しなければならないことがあった。
DNA鑑定。
結果が届いた日、俺は封筒を開ける手が震えた。
そこに書かれていたのは、残酷な事実だった。
結衣と俺の間に、親子関係は認められない。
つまり、俺は八年間、他人の子を自分の娘として育てていたのだ。
普通なら、その時点で裁判を起こせばいい。
慰謝料も請求できる。
相手が警察官なら、職場にも大きな傷がつく。
だが、俺はすぐには動かなかった。
なぜなら、由香はまだ俺が何も知らないと思っていたからだ。
ある晩、俺はわざと穏やかな声で言った。
「週末、結衣と二人で旅行に行ってくるよ。最近、あの子とゆっくり話せてなかったから」
由香は一瞬だけ目を見開いたが、すぐに笑った。
「いいじゃない。親子水入らずで楽しんできて」
その笑顔を見て、俺は確信した。
こいつは俺たちが家を空けるのを待っている。
出発前、俺は家のリビングに小型の録音機を置いた。
違法な証拠として使うためではない。
由香がどこまで腐っているのか、自分の耳で確かめるためだった。
旅行先で、結衣は無邪気に笑っていた。
「パパ、また来ようね」
その言葉に胸が締めつけられた。
血のつながりがないと知っても、俺にとって結衣は娘だった。
だが、あの女が俺から奪った八年は、簡単に許せるものではなかった。
翌日、帰宅して録音を確認した。
最初に聞こえたのは、由香の甘えた声だった。
「大丈夫よ。
あの人、何も気づいてないから」
続いて、杉浦の声が入った。
「でも、子どものことがバレたら面倒だぞ」
由香は笑った。
「平気よ。あの人、結衣のこと溺愛してるもの。真実を知っても手放せないわ」
その瞬間、俺は静かに拳を握った。
さらに録音には、二人が今後の金の話をしている声まで残っていた。
俺と離婚した後、養育費を取り続け、杉浦と暮らすつもりだったらしい。
翌週、俺は由香と杉浦を家に呼んだ。
由香はまだ余裕の表情だった。
杉浦も警察官らしく、落ち着いた態度を装っていた。
俺は黙って、机の上に写真、DNA鑑定書、そして録音データの存在を示す書類を並べた。
由香の顔色が一気に変わった。
杉浦は声を荒げた。
「これは脅迫になるぞ」
俺は静かに言った。
「脅迫ではありません。事実確認です。正式な手続きは、弁護士を通して行います」
その場に、俺の弁護士も同席していた。
由香は泣き崩れた。
「違うの、あなたを傷つけるつもりはなかったの」
俺は初めて笑った。
「八年間、俺を父親にしておいて、今さら傷つけるつもりはなかった?」
杉浦は最後まで強がっていたが、職場への報告と慰謝料請求を伝えると、黙り込んだ。
その後、離婚は成立した。
慰謝料は由香と杉浦の双方に請求した。
結衣については、本人の心を最優先にした。
俺は彼女に真実をすぐには告げなかった。
ただ、これだけは決めていた。
血ではなく、俺を父と呼んでくれた時間だけは、誰にも汚させない。
由香は最後に泣きながら言った。
「お願い、許して」
俺は答えた。
「許すかどうかは、俺が決めることじゃない。お前が壊した人生に、一生向き合え」
玄関の扉が閉まった時、俺の復讐は終わった。
だが本当の意味で、俺と結衣の人生はそこから始まった。
記事はまだ終了していません。次のページをクリックしてください
次のページ引用元:https://www.youtube.com/watch?v=frQD1twSlWM,記事の削除・修正依頼などのご相談は、下記のメールアドレスまでお気軽にお問い合わせください。[email protected]