肉離れで痛む足を引きずりながら、新宿まで出たあの日。
本当はただ、来週の京都行きのチケットを払い戻すだけのつもりだった。
正直、気分は最悪だった。
楽しみにしていた予定も潰れ、歩くたびにズキズキと痛む足。
「今日はもう何もいいことないな」――そんなふうに思っていた。
だから、京王百貨店の催し物場で
「バーニーズニューヨーク」「ユナイテッドアローズ 最大80%OFF」
そんな看板を見つけたときも、最初は通り過ぎるつもりだった。
でも――ほんの少しだけ、気を紛らわせたくて。
「見るだけ」そう自分に言い聞かせて、足を踏み入れた。
それが、すべての始まりだった。
気がつけば、手には次々と服。
「これ、元は3万円?」「これも80%OFF?」
頭の中で“お得”が積み重なっていく。
普段、私はほとんど着物で生活している。
服をこんなにまとめて買うなんて、本当に久しぶりだった。
――気づいたときには、靴2足、服8枚。合計10点。
「……やりすぎたかも」
そう思いながらも、レジに並んだ。
そのときだった。
後ろから、はっきり聞こえる声。
「ねえ、ああいう人ってさ、絶対払えないのにカゴいっぱい持ってくるよね」
「見て、あの格好でバーニーズとか無理でしょ」
一瞬、耳を疑った。
でも、確実に“私”のことだった。
足を引きずり、化粧も最低限、服もラフ。
指先だって綺麗とは言えない。
そんな自分が、彼女たちの“判断材料”になっていた。
胸の奥が、じわっと熱くなる。
でも――何も言わなかった。
言い返すよりも、今ここで感情を出す方が負けな気がした。
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