リビングへ入ってきた義妹・里穂の姿を見た瞬間、私は思わず悲鳴を上げました。
彼女が身にまとっていたのは、私が大切にしまっていた白いワンピース――それも、もう手に入らないほど高価な一着でした。そして胸元には、はっきりとした茶色いシミが広がっていたのです。
「……ちょっと、私の服、汚れてるじゃない」
声が震えました。怒りというより、積み重なった疲労の底から湧き出る絶望に近い。
すると里穂は、悪びれもせず舌をぺろりと出して笑いました。
「あ、これ? ちょっとコーヒーこぼしちゃってさ。友達にも“ドジだねー”っていじられた〜」
「あなた、それいくらすると思ってるの?」
私が必死に抑えた声で言うと、里穂は肩をすくめるように言い放ちました。
「もう、家族に対してそんな細かいこと言わないの。詩織さんってケチくさいとこあるよね〜。
ねえ、お兄ちゃんもそう思わない?」
視線を向けられた夫・健人は、スマホから顔を上げ、ためらいなく頷いただけでした。
「うん、俺もそう思うよ。わざと汚したわけじゃないだろ」
――その瞬間、私の中で何かが「ぷつん」と切れる音がしました。
新築の家。やっと手に入れた“私たちの城”が、毎日のように踏み荒らされる。私の尊厳も、時間も、努力も、家族という名目で消費されていく。なのに夫は、私の味方にならない。
「はあ? 何言ってるの。家族なら当然よねw」
里穂が当然のように言い切った直後、健人が追い打ちをかけました。
「そうだな。それより今夜、中華がいいって言ったらさ、母さんたちも来るって。用意、頼むな」
私はゆっくり顔を上げ、口元に笑みを作りました。
自分でも不思議なくらい、穏やかな笑顔でした。
「OK。最後の晩餐ね」
「……え?」
健人も里穂も、きょとんと目を丸くしました。
けれど私はもう、説明するつもりがありませんでした。説明しても、理解されないことを何度も学んだからです。
私は小川詩織、三十歳。既婚。身長は百七十五センチ。
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