引越し当日、まだ新居のワックスの匂いが残る5LDKの玄関に、段ボールが山のように積み上がっていた。私は汗をぬぐいながら、ようやく「ここが私たちの新しい生活の場所になるのね」と胸の中で小さく呟いた。
――その瞬間だった。
「なあ、言い忘れてたわ」
夫が妙に軽い口調で言う。嫌な予感が背筋を走り、私は手を止めた。
「明日から、ママも同居な! この家、広いし問題ないだろ?」
耳を疑った。相談も説明も、何ひとつない。私が言葉を探している間に、夫のスマホがスピーカーになり、義母の甲高い声が響いた。
『楽しみねぇ。5LDKなんて立派じゃない。これで嫁いびり、思う存分できるわw』
……嫁いびりを「楽しみ」と言い切る人が、明日から同居。
私の中で、怒りより先に静かな覚悟が固まった。
(楽しみ? 同感よ)
私は笑った。表情だけは、穏やかに。
「了解。準備しておくね」
夫は、私がショックで言い返せないのだと勘違いしたのだろう。満足げに頷き、義母も電話越しに勝ち誇ったように笑った。
けれど私は、この瞬間から“引越し”の意味を変えた。
これは家族が増える日ではない。
私が、私の人生の主導権を取り戻す日だ。
そもそも、私は結婚してからずっと義母に苦しめられてきた。
「あなたは気が利かない」
「うちの息子に釣り合ってない」
「料理がまずい」
言葉は毎回違っても、狙いは同じ。私の自信を削り、夫の前で私を小さく見せること。夫は夫で、「母さんは悪気がない」「年寄りの言うことは流せ」と繰り返し、私を守らなかった。
だから私は、心のどこかで決めていたのだ。
この人たちが“本気で踏み込んでくる”なら、こちらも“本気で終わらせる”と。
翌日。
義母は、朝から大きなキャリーケースを転がして現れた。新居の廊下を見回し、品定めするように鼻を鳴らす。
「ふぅん、悪くないじゃない。まず、あなたの部屋は狭いところでいいわよね? 嫁なんだから」
夫も当然のように頷いた。
「そうだな。母さんの部屋は日当たりのいい方で。
記事はまだ終了していません。次のページをクリックしてください
記事はまだ終了していません。次のページをクリックしてください
次のページ引用元:https://www.youtube.com/watch?v=vueIVj_yaN4,記事の削除・修正依頼などのご相談は、下記のメールアドレスまでお気軽にお問い合わせください。[email protected]