八年ぶりに本社へ足を踏み入れたその日、私は自分の立場を「臨時社員」としていた。
だがそれは表向きの顔にすぎない。実際には、私は内部監査として極秘任務を帯び、この部署に潜り込んでいた。
製造部の部長である金村は、私の顔を見るなり露骨に顔をしかめた。
「なんだ、その年で臨時か。無能ジジイは会社のお荷物だろ。意味、わかる?」
周囲にいた若手社員が、気まずそうに視線を逸らす。
私は怒りを表に出さず、静かに答えた。
「……よーく、わかりました」
その一言で、金村は勝ち誇ったように鼻で笑った。
だが彼は知らない。私が八年前、品質管理の厳格さを理由に子会社へ出向させられた人間であり、その後、現場と管理の両面で実績を積み、今回の内部監査を任された存在だということを。
翌日から私は、雑用をこなしながら製造ラインを観察した。
安全基準は形骸化し、品質検査は意図的に省略され、検査表には修正テープの跡が残っている。不良品を合格に見せかける、稚拙だが悪質な改ざんだった。
さらに、請求書を調べると、同一製品の単価が不自然に三割も引き上げられている。
取引先の確認体制の甘さを突いた、明確な水増し請求だった。
私は三日間で、写真、音声、書類コピーという形で証拠を揃えた。
そして三日後――。
役員同席の緊急会議が開かれた。
呼び出された金村は、不機嫌そうに席につく。
「何の会議だ? 忙しいんだが」
そこへ、私が分厚い資料を抱えて入室した瞬間、金村の顔色が変わった。
「……なぜ、お前がここに?」
取締役の山口が、低く告げる。
「紹介しよう。こちらは牧原。今回の内部監査を担当した監査官だ」
会議室が凍りついた。
私は淡々と資料を映し出し、請求書の水増し、品質データの改ざん、安全基準違反を一つずつ説明していく。
言い逃れは許されなかった。
すべて、証拠が揃っていたからだ。
最後に私は、金村をまっすぐ見て言った。
「あなたは私に言いましたね。無能ジジイは会社のお荷物だと。
では聞きます。不正を働く管理職は、会社にとって何でしょうか」
金村は言葉を失い、崩れ落ちるように椅子に座り込んだ。
その場で、懲戒解雇が決定した。
白井を含む関係者も処分対象となり、製造部は全面的な立て直しに入ることになった。
八年前、私を追い出した本社で、私は再び立っている。
今度は、会社を守る立場として。
人を見下した言葉は、いつか必ず自分に返ってくる。
そのことを、彼は最後まで理解できなかったのだろう。
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