私は地方都市の片隅で、小さな営業所に所属する運転手だ。肩書きだけを見れば、誰もがそう言うだろう。「所詮、車を回す人間だ」と。だが、私にとってこの仕事は、ただハンドルを握るだけではなかった。人と人を繋ぐ道を選び、現場の温度を知り、数字の裏側を見続ける――それが私の誇りだった。
勤務先は、全国に八百店舗を展開する大手チェーンの関連会社だ。東京本社を頂点に、地区本部、各エリア、そして店舗へと、綺麗に整えられた指揮系統がある。だが実際は、現場ほど泥臭い。納期、陳列、クレーム対応、近隣との調整、そして人員不足。誰もが忙しく、余裕を失いがちになる。
私はその「余裕」を取り戻すために、運転手として現場を回りながら、気づいたことをメモに残していた。配送車の動線が悪い店、バックヤードが詰まる時間帯、スタッフの配置の癖、客層の波。運転席から見える景色は、店の未来の形に直結していたからだ。最初は誰にも見せるつもりはなかった。
運転手が口を出すなど、生意気だと笑われるのがオチだと思っていた。
ところが、そのメモが変わるきっかけがあった。半年前、私の担当するエリアで新規出店計画が進んだ。既存店舗の売上が伸び悩み、閉塞感が漂う中で、地区部長の大槻は成果を焦っていた。数字だけを見て、現場を叱り、会議では大声で成功を約束する。だが現場の誰も、彼の言葉を信じていなかった。
新店の候補地を回る際、私は運転手として部長に同行した。下見の途中、部長が電話で怒鳴り散らす声を聞いた。「売上が上がらないのは店長の努力不足だ」「現場は甘い」。私は車内で黙っていたが、胸の奥に小さな怒りが灯った。努力が足りないのではない。努力の方向が噛み合っていないだけだ。導線と動線、棚割り、人員配置、近隣需要。調整すべきことは山ほどある。
その夜、私は覚悟を決め、匿名で地区本部の改善提案箱にメモを投げた。運転手が書いたとは分からないよう、文章は淡々と、数字と観察を添えて。
翌週、信じられないことが起きた。地区本部から、各店舗に「動線改善」「ピーク配置の見直し」「バックヤード滞留時間の短縮」など、私の提案と同じ内容の指示が降りたのだ。
さらに一か月後、売上が目に見えて変わった。新店の設計にも反映され、オープン初月で想定を上回る数字を叩き出した。もちろん、現場の努力があってこそだ。だが、私は確かに手応えを感じていた。
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次のページ引用元:https://www.youtube.com/watch?v=CPi17Gh7MUI,記事の削除・修正依頼などのご相談は、下記のメールアドレスまでお気軽にお問い合わせください。[email protected]