「本当にいつも助かってるよ。ありがとう」
それは、結婚してから二十年間、夫が駅までの送迎のたびに必ず言ってくれる言葉だった。
その言葉を聞くたびに、私は「この人と結婚して良かった」と思っていた。
私の名前は恵子。
二十一年前、父が突然体調を崩して亡くなった。父は会社を経営しており、私にとっては人生の支えのような存在だった。突然の別れに、私はしばらく立ち直ることができなかった。
そんな私を救ってくれたのが、友人の紹介で出会った隆之だった。
彼は建設会社を経営している社長で、豪快に笑う明るい人だった。細かいことは気にしない性格で、食事の時もよくこんな会話をしていた。
「このほうれん草のおひたし、美味しいな」
「それ、小松菜よ」
「どっちでもいいよ、美味しいのは変わらないだろ?」
そんな少し大雑把なところも、当時の私には温かく感じられた。
やがて交際は結婚へと進み、私は彼と家庭を築いた。
隆之の会社は自宅から電車で三十分ほど離れた場所にあり、私は毎日彼を駅まで車で送り迎えしていた。
二十年間、ほぼ欠かさず。
それでも、彼は毎回必ず「ありがとう」と言ってくれた。
その言葉が嬉しくて、私は少しも苦には感じなかった。
だが、三年ほど前から様子が変わり始めた。
送迎の時間が、早朝や深夜になることが増えたのだ。
「どうしたの?最近、時間が変わったわね」
そう聞くと、隆之は平然と答えた。
「夜の現場が増えたんだよ。建設業は時間が不規則なんだ」
私はその説明に納得し、変わらず送迎を続けた。
時には、隆之が数人の作業員を連れてくることもあった。
「こいつら、うちの社員なんだ」
彼らは作業服を着て、土や錆のような汚れで真っ黒だった。
そのまま車に乗り込んでくるので、正直少し気になった。
ただ、不思議なことに毎回違う顔ぶれだった。
「社員の入れ替わりが激しい会社なのかしら」
記事はまだ終了していません。次のページをクリックしてください
記事はまだ終了していません。次のページをクリックしてください
次のページ引用元:https://www.youtube.com/watch?v=MYO_5XdKfY8,記事の削除・修正依頼などのご相談は、下記のメールアドレスまでお気軽にお問い合わせください。[email protected]