仕事を終えて帰宅すると、いつもなら玄関まで走って迎えに来てくれるはずのうちの猫が、その日はリビングのクッションの上でじっと動かずに座っていた。静かにこちらを見つめるその姿に、どこか違和感を覚えた。
「今日はどうしたの?元気ないの?」問いかけても反応は薄く、目線だけがこちらを追ってくる。普段は人懐っこく、少しでも物音がすれば飛んでくる子なのに、まるで置物のように動かない。
最初は気まぐれかと思い、そのまま様子を見ることにした。しかし10分、20分経ってもその場から微動だにしない。さすがに不安になり、体調が悪いのではないかと心配になった。
「ちょっと、具合悪いの?」そっと近づいて撫でてみるが、硬直したまま体を丸めている。
何とか抱き上げようとしても、足を踏ん張ってまるで動こうとしない。それでも無理に持ち上げようとした瞬間、猫が暴れて前足でクッションを蹴った。
その拍子に、クッションがズルっとずれて中から何かが見えた。そこにあったのは――なんと、首と胴体がちぎれたぬいぐるみ。
よく見れば、それは猫のお気に入りのおもちゃ。子猫の頃からずっと遊んできた、小さなクマのぬいぐるみだった。体の綿が少し飛び出しており、明らかに自分で壊してしまった形跡がある。
猫はというと、「うわ、見つかっちゃった…怒られる…」とでも言いたげな顔をして、しゅんと肩を落としていた。目をそらし、耳を伏せ、まるで小さな子どもがいたずらを隠そうとしていたかのようだった。
怒るどころか、思わず微笑んでしまった私は、ぬいぐるみを拾い上げて針と糸で簡単に縫い直した。ぬいぐるみは少し不格好にはなったが、なんとか元の形に戻った。
すると猫は、縫い直されたぬいぐるみをそっとくわえ、ゴロゴロ喉を鳴らしながら自分の寝床へと持っていった。そして、ぬいぐるみに顔を擦り寄せながら、丸くなって一緒に眠ってしまった。
普段はそれをくわえて振り回し、時には後ろ足で連続キックをお見舞いしていたくせに、この日はまるで宝物のように大事そうに抱えていた。ぬいぐるみを壊してしまってからずっと、私に見つかるのを恐れて守っていたのかもしれない。
子猫の頃から一緒だったおもちゃ。壊れてしまっても、まだそばにいてほしかったのだろう。そんな姿を見て、私の心もほっこりと温かくなった。
些細な出来事の中に垣間見える、猫の無垢な優しさと愛情。普段は気づかないその繊細な気持ちに触れると、私たち人間ももっと丁寧に、思いやりをもって接していかなければと感じさせられる。猫は言葉を話さなくても、たくさんのことを伝えてくれるのだ。
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