まるで時が巻き戻ったかのようだった。
老犬ホームの静かな朝、1匹のラブラドール・レトリーバーが、長年の盲導犬としての使命を終え、新たな旅立ちの時を迎えていた。その名は、オリバー。彼は多くの人の生活を支えてきた立派な盲導犬だったが、年齢と病の影響で現役を退き、今は穏やかな余生を過ごすための場所を探していた。
「ありがとう、オリバー。よく頑張ったね」
ボランティアスタッフたちの温かな見送りの中、オリバーが向かった先は、彼がまだ生後45日から1歳になるまでを過ごした、かつての“パピーウォーカー”である佐藤さんの家だった。
11年という時を経ての帰還。佐藤さん一家は、その日をずっと待ち望んでいた。
「パン食い競争の時、一緒に走ったわね。
あの時も可愛かったなあ。…覚えてるかしら、オリバー?」
佐藤さんは微笑みながら語るが、その目にはすでに涙がにじんでいた。オリバーが腫瘍を患っていると知った佐藤家は、「最後の時間を、家族で一緒に」と話し合い、彼を引き取る決断をしたのだ。
「おかえり、オリバー。ご苦労さま」
再会の時。車の窓から流れる風景を、オリバーはじっと見つめていた。彼がかつて散歩した道、立ち止まって匂いを嗅いだ木、走り回った公園…すべてがそのまま、そこにあった。
そして玄関が見えた瞬間、オリバーはふと立ち上がった。どこか覚えているような、懐かしさに反応するような動きだった。
ドアが開く。中から現れた佐藤さんが、優しく名前を呼んだ。
「オリバー…」
次の瞬間だった。オリバーは力強く尻尾を振り、嬉しそうに佐藤さんの元へ駆け寄った。大きな体をゆっくりすり寄せながら、まるで「ただいま」とでも言うように、甘えるように顔を寄せるその姿。
その瞬間、佐藤さんの目から大粒の涙がこぼれ落ちた。
「覚えてたのね…私たちのこと…」
オリバーは言葉こそ話せないが、その行動すべてが、記憶と愛情を示していた。11年という長い時を経ても、幼き日々の温もりは、決して消えることはなかったのだ。
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次のページ引用元:https://www.youtube.com/watch?v=s_qEzONlBMA,記事の削除・修正依頼などのご相談は、下記のメールアドレスまでお気軽にお問い合わせください。[email protected]