妊娠7ヶ月の私の足元に、突然、植木鉢が落ちてきた。
反射的にお腹を抱えて一歩後ろに下がる。
次の瞬間、ガシャンという音とともに植木鉢が床で割れた。
黒い土がリビングいっぱいに広がる。
あと少しで、私の足に当たるところだった。
私は息を整えながら床を見つめた。
沈黙を破ったのは義母だった。
「働かない嫁が家でゴロゴロしてるから、花まで枯れるのよ。」
腕を組んで、義母は鼻で笑う。
私はまだお腹を押さえていた。
義母は私のお腹をちらっと見て、吐き捨てるように言った。
「そんな腹で何もしてないじゃない。」
胸の奥がじわっと熱くなる。
言い返そうとした瞬間、夫が口を開いた。
「母さんにそんな言い方するなよ。」
私はゆっくり顔を上げた。
夫は腕を組み、不機嫌そうに立っている。
「母さんだって悪気があったわけじゃない。」
悪気がない?
さっき植木鉢を蹴り倒したのは、この人だ。
しかも、それは——
私が買った植木鉢だった。
三年前、この家に引っ越したときに買ったもの。
私は床の土を見ながら、静かに言った。
「その植木鉢、私が買ったんです。」
義母は肩をすくめて笑った。
「だから何?」
私は顔を上げた。
「この家の家具、ほとんど私が買いました。」
夫が眉をひそめる。
「急に何の話だよ。」
私は夫を見た。
三年前のことを思い出していた。
この家を買ったとき。
契約も、頭金も、全部私だった。
結婚したあと、夫は義母にこう言った。
「俺が買った家だよ。」
私はその時、何も言わなかった。
夫のプライドを守るためだった。
でも、その嘘は三年続いた。
義母はずっと言っていた。
「ここは息子の家なんだから。」
私は黙っていた。
ただ、最近になって義母の言葉はどんどんきつくなっていた。
「息子の金で生きてるくせに。」
そう言われるたびに、胸の奥に何かが積もっていった。
だから私は、先週、弁護士に相談した。
このまま我慢し続けるべきなのか。
それとも——
別の道を考えるべきなのか。
私はスマホを取り出した。
銀行アプリを開く。
数回スクロールしてテーブルの上に置いた。
夫が画面を覗き込む。
そこに並んでいる数字。
270,000円
次の月。
270,000円
その次も。
270,000円
三年間、同じ金額。
夫の顔色が変わる。
「……ローン?」
私は頷いた。
「住宅ローンです。」
義母はまだ理解していない顔だった。
「それがどうしたの?」
私は画面を指で示した。
引き落とし口座。
そこに書かれている名前。
私の名前。
夫が固まる。
「ちょっと待て……」
私は静かに言った。
「この家、私が買ったんです。」
義母の表情が一瞬止まった。
それから、ゆっくり夫を見る。
「……どういうこと?」
夫は何も言えない。
義母は夫の腕をつかんだ。
「嘘だろ?」
声が少し震えている。
夫は目を逸らした。
その沈黙だけで、十分だった。
私は続けた。
「頭金も、契約も、私です。」
部屋の空気が重くなる。
私はさらに言った。
「ちなみに、この三年のローン。」
「月27万円。」
「全部、私の口座です。」
義母の顔が少しずつ赤くなっていく。
「そんなの聞いてないわよ!」
私は静かに言った。
「聞いてこなかっただけです。」
それから続けた。
「夫は住民票を見せたこともありませんでした。」
義母は言葉を失った。
私はスマホを閉じた。
そして二人を見た。
「この家、私の名義です。」
少し間を置いて、最後に言った。
「出ていくのは、どちらですか?」
部屋の中は、もう誰も言葉を出せなかった。
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