その日、
私は妊婦健診で産婦人科に来ていた。
平日の午前中だったけど、
待合室はかなり混んでいた。
お腹の大きい妊婦さん。
付き添いの夫婦。
泣きそうな小さな子ども。
独特の静かな空気が流れていた。
そんな中、
ひとりだけ異様に顔色の悪い男性がいた。
三十代くらい。
青白い顔で、
待合室の端の椅子に座っていた。
猫背で、
ずっと紙を握りしめている。
しかも周囲には、
立っている妊婦さんが何人もいた。
だからなのか。
突然、
近くにいた妊婦さんが声を荒げた。
「ちょっと、なんで男の人が座ってるんですか?」
待合室が一瞬静かになる。
女性はイライラした様子で続けた。
「見れば分かりますよね?
立ってる妊婦さんいるんですよ?」
男性は顔を上げた。
でも、
何も言わなかった。
ただ、
握っていた紙が少し震えていた。
女性はさらにヒートアップした。
「普通、自分から譲りません?
ここ産婦人科ですよ?」
すると周囲も、
なんとなく女性側の空気になった。
確かに、
言ってること自体は間違ってない。
妊婦さん優先。
それは普通の感覚だと思う。
でも。
私はその男性の様子が、
どうしても気になった。
汗の量がおかしかった。
今にも倒れそうな顔をしていた。
それでも男性は、
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