家族が嫌いなわけじゃない。
逃げたいわけでもない。
でも、「父」や「夫」だけを演じ続けていると、
自分がどこかに消えていく気がした。
俺は家族に内緒で、
家賃19,000円の6畳の部屋を借りている。
築40年、風呂なし、ガスなし。
万年床とちゃぶ台だけの、静かな部屋。
ここは俺の“秘密基地”。
仕事終わり、家に帰る前の1時間。
休日の午後、ほんの半日。
スーツのまま布団に沈んで漫画を読む。
ちゃぶ台でプラモを作る。
子供の頃に見ていたアニメを流す。
何も生産的じゃない。
でも、これが俺にとっての「呼吸」なんだ。
──家ではいつだって「パパ」だけど、
ここでは「ただの俺」でいられる。
家族が嫌じゃない。
むしろ大好きだ。とても。
でも、
子供が初めて寝返りした日、
「先週からやってるよ?知らなかったの?」と
悪気なく言われた時、
胸の奥がぎゅっとした。
「俺は、家族の“当事者”じゃないのか。」
「いつも、ちょっと遅れてる存在なのか。」
そう思ってしまった。
だからと言って、
家族を責めたいわけでも、
誰が悪いとかでもない。
ただ、
俺にも「俺でいられる時間」が必要だっただけなんだ。
この部屋があるから、
俺は明日もちゃんと家に帰れる。
笑って「ただいま」って言える。
もしこの秘密がバレたら、
「浮気だ」と思われるかもしれない。
「家族から逃げてる」と言われるかもしれない。
でも違う。
逃げてるんじゃなくて、
壊れないようにしてるだけ。
父になる前に、夫になる前に、
俺だって一人の人間だから。
「家族を愛してるからこそ必要な場所」
って、世の中にはあるんだよ。
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