同じ年に入社したAという男がいた。営業成績は常にトップ、ルックスもよく、話術に長け、美人の彼女までいる――まさに「完璧」な男だった。
俺とは対照的に地味な存在で、実績も目立つほどではなかったが、地道に努力を重ね、上司や同僚との関係も円満だった。特にAと何かトラブルがあったわけではない。ただ、なぜかAは俺を目の敵にしていた。こちらは何とも思っていないのに、彼は一方的にライバル視してきた。
そんなある日、上司に呼び出され、「君に栄転の話がある」と告げられた。驚いた。正直、栄転の候補は当然Aだと思っていたし、俺は候補外だとすら思っていた。
しかし、それを耳にしたAが動いた。上司に対し、「俺君は素行が悪く、後輩にパワハラまがいの態度をとっている」「社内の女性に声をかけまくっている」と虚偽の情報を吹き込んだのだ。
俺の栄転話はすぐに取り消され、代わりにAがそのポストを任されることになった。Aは俺に薄ら笑いを浮かべながら言った。「悪いな、俺君。まあ、俺の方が適任ってことだよ。君はジャパンでがんばってくれたまえ」
だが、正直俺はホッとしていた。というのも、その「栄転」とは名ばかりで、実際は治安の極めて悪い某海外国への5年間の赴任だったのだ。独身とはいえ、命の危険を感じるような国に行きたくなかった。だが、辞退すれば社内での評価に響く。
だから、Aにはむしろ感謝している。「栄転」の響きに舞い上がっていたA。だが、赴任先を聞いたときの彼の顔といったら、今でも忘れられない。顔面蒼白、まさに言葉を失うとはこのことだ。「え、その国って……かなりヤバいって聞いてるんだけど……。
やっぱり俺君の方が適任だったんじゃ……?」
そう口走るAに、上司はきっぱり言った。「ダメだ。俺君には素行に問題があると聞いている。君しかいない。期待しているぞ、エース」その場で吹き出しそうになるのを必死でこらえた。
ちなみに、最初に打診されていたのはAの方だったそうだ。だが、彼が婚約中だったことから、長期間の遠距離になるのは気の毒だという配慮で、独身の俺に声がかかったという。そして、例の“素行の悪さ”の情報により、再びAに戻ったわけだ。
だが結末は皮肉なものだった。Aは「一緒に海外で暮らそう」と彼女に伝えたものの、「危険な国には行けないし、5年も待てない」と言われ、婚約を解消されてしまったという。
優秀なAだが、人生には予測不能な転機がある。俺はこれからも日本で、地道に、堅実に働いていくつもりだ。あの一件は、人生の選択を他人に任せることで救われた、そんな経験だった。
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