私は、あるショッピングモール内に入っている飲食店で社員として働いている。フードコートではない、いわゆる独立した店舗で、他のテナントの従業員もよく利用してくれる。
その理由の一つが、モール従業員専用の通行証による“従業員割引”だ。モールで働いている人なら皆その恩恵を受けられるため、昼休みや休憩時間になると他店舗からの常連がふらっとやってくる。
その中に、決まって毎週同じ曜日・同じ時間に、同じメニューを注文する人がいた。頼むのはいつも「小エビの◯◯(※フェイク名)」で、その姿はすっかり店内スタッフにとってもお馴染みの存在となっていた。裏では親しみを込めて“小エビさん”と呼んでいたくらいだ。
だが、ある日――思わぬクレームが本社宛てに届いた。「○月○日、○月○日、○月○日の○時ごろに食べたこのメニューが、あまりにもしょっぱすぎた。他の日はそうではなかった。味の統一を徹底してほしい」
確認すると、その日付と時間はまさに小エビさんが来店していたタイミングだった。そしてもっと驚いたのは、その日全てで該当メニューを担当していた調理スタッフが同一人物だったこと。
スタッフA――一見、無難に業務をこなしているように見える若手だった。
店長と共に面談を行った結果、Aの口から出たのは、まさかの言葉だった。「自分はやりたくない仕事をしてるのに、割引きで美味い飯食ってる人間が許せなかった」
なんとAは、小エビさんを含む“従業員割引で来店する客”に対して、わざと料理の味付けを濃く(=しょっぱく)していたのだ。
店舗マニュアルを無視し、味の品質を意図的に落とす。これは看過できない問題だった。店長はAに対して「今すぐ自主退職しなければ、解雇通知を出さざるを得ない」と告げ、Aは渋々辞めていった。
その後も、小エビさんは何度か来店してくれた。しかし、モール内のテナントがいくつか撤退したのを境に、いつの間にか姿を見せなくなった。
現在も、あの“小エビの◯◯”を仕込むたびに、私はふと彼の顔を思い出す。
どんな理由があれ、料理を作る側が「感情」で味を変えることは、決してあってはならない。信頼は一瞬で失われ、二度と戻らないのだから。
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