毎年、夏になると俺は地元に帰って、昔の友達家族と海へ行く。
結婚してからは、毎回嫁も一緒に連れていった。
俺は当たり前のことだと思ってた。
今年も「いつ行く?」と聞いた時、嫁は少し笑って言った。
「今年は…やめとこうかな。あなたは行ってきて。私は実家で両親と過ごしたい」
最初は冗談かと思った。
でも嫁は首を横に振るばかり。
理由を聞いたら、ゆっくり話してくれた。
あの海で、みんなが子どもと遊んでいる間。
俺は友達と沖の方まで泳ぎ、サザエやアワビを探しに行っていた。
その間、嫁はひとりだったらしい。
子どもがいない嫁は、子どもを中心に輪になっている奥さん達に入れない。
でもひとりで海に入るわけにもいかない。
結局、ほとんど海に入らず、暑い浜辺でずっとバーベキューの肉を焼いていた。
俺は「みんなで楽しくやってる」と勝手に思っていた。
嫁は「それでも楽しかったよ」と笑っていた。
ずっと、そう信じていた。
でも実際は違った。
「私が入ると、どうしても空気変わっちゃうでしょ。
子どもいないし…迷惑かなって」
嫁は淡々と言った。
責める言い方じゃない。
ただ、事実を置くように。
俺は何も知らなかった。
6年も。
それどころか俺は、友達の前で嫁が俺に寄ってきた時、
「人前でベタベタしないでよ」
なんて言ってた。
あれは、嫁が「ひとりじゃない」って必死に繋ごうとしてたのかもしれないのに。
思い返すほど、胸が締めつけられる。
6年間、俺は嫁をただ置いていた。
「大丈夫だろう」って勝手に思ってた。
嫁が気さくで、明るくて、美人で、誰とでも仲良くできる人だと…思い込んでた。
でも本当は、ただ「頑張ってた」だけだった。
「今年は二人で、どこか海に行こう」
そう言ったら、嫁はすごく嬉しそうに笑った。
その顔見たら、涙が出そうになった。
俺、ずっと見てなかったんだな。
夫婦って、“連れて行く”んじゃなくて、
“一緒にいく”なんだな。
ねえ。
大切な人の「ほんとの顔」って、いつ気づけるんだろうね?
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