五年前。俺たち「Y&A」は、無名のベンチャー企業に過ぎなかった。
そのとき手を差し伸べてきたのが、大手ホールディングス「クラガグループ」のクガ社長だった。
「お前ら、面白い。契約してやろう。ただし、製品の価格は半額だ」
横暴だった。だが、俺はその条件を飲んだ。今ではその選択が正しかったと証明されている。あの契約を足がかりに、Y&Aは多くの企業と契約を結び、成長を遂げた。そして今、我々は「ウグモリグループ」と名を改め、200社を傘下に持つ企業連合となった。
そんなある日、突然、クガが現れた。
「久しぶりだな、レオン。お前らには俺に恩があるよな?だから、俺の会社に出資してくれよ」
唐突な要求だった。しかも彼は「恩返しのチャンスをくれてやってる」とまで言った。
一週間後、彼のセッティングした会食の場。俺は毅然と言った。
「出資はします。ただし、これが最後です。額は1億円です」
クガは顔を歪めた。
「1億円ポッチかよ!そんなはした金いらねえよ!音知らずは床で食え!」
その言葉を聞いて、俺の中で何かが音を立てて崩れた。弟のマモルが怒りで震えているのを見て、心は決まった。
「そうですか。では出資は全てやめさせていただきます。グループ会社への出資も含めて」
「え、グループ会社……?」
あの日のクガは、まさかその意味を理解していなかった。
翌日。クガグループ本社は騒然としていた。彼らのグループ会社200社への出資——総額3000億円を、我々ウグモリグループが撤回したからだ。
「このままでは、グループ会社すべてが倒産してしまう……!」
クガが我々の元を再び訪ねてきた。
「すまなかった。グループ会社だけでも助けてくれ……恩があるだろう?」
だが俺は静かに答えた。
「半額での契約、そして一方的な契約解除。その恩の裏には、苦しみもあったんですよ」
「でも、君たちは今、大企業じゃないか。それは俺のおかげだろう?」
「ある程度は、ね。でもね——」
俺は彼の目を見据えた。
「君が俺の弟にした仕打ちは、絶対に許さない。
俺は自分には多少の無礼を受け流せても、家族にはそうはいかないんだ」
クガは肩を落とした。
「頼む、俺には時間がない。グループ会社が潰れたら、本社も終わりなんだ……!」
その時、マモルが言った。
「兄ちゃん、さすがにかわいそうじゃない?」
俺は首を横に振った。
「大丈夫。グループ会社は全部、俺たちが買い取るから。地獄に落ちるのはクガ本社だけだよ」
結局、我々は200社すべてを救済した。
その後、ウグモリグループはさらに巨大な企業体へと成長を遂げる。
クガ本社は、というと——支えを失った船のように、静かに沈んでいった。
「兄ちゃん……あんなことされても、出資をしようとしてたの?」
「うん。少しでも恩があるなら返したい。俺はそういう人間でいたいんだ」
「でも、やっぱり兄ちゃん、優しすぎるよ」
俺は笑って肩をすくめた。
「マモル、お前が怒ってくれたから、今回はちゃんと区切りをつけられたよ。ありがとうな」
——恩は、時に人を縛る。
だが、過去の恩に盲目になりすぎると、本当に大切なものを見失う。
俺が守るべきは、会社の未来と、家族の誇りだ。
そしてもう、俺たちを侮る者にはこう言おう。
「1億円ポッチ?――なら、全部やめてやるよ」
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